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かつては、CMはテレビで放映されるものでしたが、近年では動画配信サービス・ソーシャルメディアなど至るところで目にする機会が増えました。それに伴い、マスメディアで広く多くの人に周知するだけではなく、ターゲットを絞って配信することが可能になりました。ターゲットを絞ったウェブ出稿では、クリック率や視聴時間などの数値を取得できますが、行動データだけでは「なぜその行動が起きたのか」という原因や理由を解明することは難しいかもしれません。
一般的に、原因の追求にはアンケート調査が用いられますが、アンケート結果とウェブ出稿で得られる数値結果が矛盾することも少なくありません 。感覚的なものを言語化する難しさや、建前回答になってしまうことが原因なのではないでしょうか。しかし、CM視聴している最中に人がどのような生体反応を示すかを計測・分析することで、CMの何にどう反応したかを理解することが出来ます。
この記事では、CM視聴時にリアルタイムで脳・視線・心拍・皮膚電位を計測することで、無意識の反応を数値化し、CMのAB比較検証を実施した事例をご紹介いたします。
1.生体計測×CM効果検証の全体像
1-1.生体計測×CM効果検証の流れ
以下に、実際の案件を進める場合の一連の流れをご紹介します。
「どんな準備が必要で、どのように検証が進むのか」を具体的にイメージいただけるよう、オリエンテーションから最終報告までのステップを順を追って解説いたします。
オリエンテーション
「ターゲット視聴者がどこに反応しているのかを知り、次回作のクリエイティブ制作に活かしたい」などのご要望を個別にお伺いいたします。
脳計測する被験者のリクルーティング
商品ブランドのターゲットや属性に合う被験者を選定しリクルーティングいたします。被験者数は調査内容や目的により変動いたします。
計測を実施
被験者に弊社の実験室にて専用の計測機器を装着した状態で、検証用動画を視聴してもらいます。計測後にアンケートも行い、主観と客観どちらのデータも収集します。
データ解析
弊社の解析専門チームが、生体計測データとCM動画の関連性について、データ解析を行います。
レポート作成
解析結果をレポートにまとめてご提出いたします。 CM動画のタイムラインのどこに被験者が反応しているのか、適切なターゲットが反応しているか、 A/Bどちらの編集の反応が高いか、などの視聴者の本音を明らかにします。
報告会
ご希望に応じてレポート内容についての報告会を開催します。
1-2.使用する生体指標の概要
本検証に使用した生体指標では、それぞれどんなことが分かるのかをご紹介いたします。
・機能的近赤外分光法(fNIRS:脳活動計測)
近赤外光を用いて脳内毛細血管の血流を計測する装置で、脳波計と比較して、脳のどの部位で活動が起こったかを正確に特定する性能(空間分解能)が高いのが特徴です。CM評価においては、好感度・記憶・興味(自分ごと化)などに関する部位が働いているかという指標が多く用いられます。
・ 記憶や興味関心に関わる脳活動についてCM全体、ターゲットシーンでの数値化が可能です
・ どこの時点で脳活動のピークを迎えるか時系列波形から評価することができます
・脳波(EEG:脳活動計測)
脳の電気的活動を計測する装置で、1秒間に計測できるデータ数が多い(時間分解能が高い)のが特徴で、脳の瞬間的な反応を捉えられます。注意や集中・覚醒やリラックスなどの即時の反応を見たいときに用いられます。
・視線計測(アイトラッキング)
眼球の動きからCM内の注目領域や視線の滞留時間を計測でき、シーンごとに見られている箇所と見られていない箇所を可視化できます。
・心拍計測
心拍リズムの変動を分析することにより、CM全体を通したストレス・リラックス度を計測できます。
・皮膚電位(自律神経と関連のある手のひらの発汗量)計測
交感神経の働きを反映する発汗量に伴って変化する皮膚電位を利用して、CM内の部分的なインパクト度合い、衝撃度合いなどを計測できます。具体的には皮膚電位の波形がピークを示した数、またその振幅で評価をします。
2.検証デザイン(目的・方法)
2-1.検証目的
ここからは、いよいよCMのAB比較検証を実施した事例を具体的にご紹介いたします。
今回は、飲料・サービスの2業種のCMを用いて検証を行いました。各カテゴリにて同商品を訴求するAとBの2種類のCMを比較した際の違いを検証することを目的としました。
●飲料A:女性タレント&商品訴求
●飲料B:男性タレント&商品訴求
➡️構成は似ているが、出演しているタレントが異なる
●サービスA:男女タレント3名&サービス訴求
●サービスB:男女タレント3名&サービス訴求
➡️構成&展開は同様だが、ストーリーが異なる
2-2.検証方法
参加者
20~60代(平均年齢:38歳)の男女12名に参加いただきました。
計測指標
CM視聴中に以下の生体指標を同時計測しました。
生体計測内容
・fNIRS(HOT-2000)を用いた前頭前野脳活動計測
・脳波計を用いた脳活動計測
・視線計測(アイトラッキング)
・心拍計測
・皮膚電位(自律神経と関連のある手のひらの発汗量)計測
手順
生体計測機器を装着した状態で、モニターにてCMを順に視聴していただき、視聴終了後には、主観アンケートに回答いただきました。CMの呈示順は順序効果を考慮し、被験者間でランダマイズを行っています。
3.視線データアウトプットイメージ
広告評価の成果物を具体的にイメージいただけるよう、サンプル動画をご用意しました。
視聴者全員の視線を重ねたヒートマップを、CM映像に重ねて可視化しています。
他の3種類のサンプル動画もYouTubeにて公開しております。
→ 詳しくはこちらからご覧ください
4.検証結果:飲料CM
タレント1名の飲用シーンと商品訴求を交互に見せる構成は似通っており、違いは出演タレントのみです。タレントの違いで差は生じるのか、類似したシーンでは同じ反応になるのかを項目ごとに見ていきましょう。
4-1.主観評価
・好意度:ABいずれも「とても好感」6名/「まあまあ好感」6名 → 有意差なし
・行動意欲:A 8名/B 9名 → 有意差なし
・自由記述:「さわやか」「夏にぴったり」など好印象が多数
いずれもほとんど差がなく、音楽・ナレーション・商品に対しても好印象であり、マイナスな言及が少ないという似た傾向が見られています。
4-2.脳活動(fNIRS)
・ 記憶・興味(自分ごと化)に関する部位にてBの方が高い値を示しました 。
→ どちらのCMもリラックスの感想を書いていた被験者が多かったことから、脳活動はどちらも高くなかったと考えられます。
・ CM A、Bともに左側に商品名、右側にタレントが写っているシーンで興味(自分ごと化)に関する脳部位の活動がピークを迎える傾向がありました。

4-3.脳活動(脳波)
・B視聴中でα波がやや低く、集中傾向
4-4.視線
・タレントと商品を交互に注視する構成
・Bでは「しずる感」や商品名の見せ方が効果的に視線を集めた
また、商品名を際立たせるために、商品+商品名のシーンを増やしている点、商品名が表示される方向に、タレントの顔を向かせている点が効果的だった可能性が考えられます。
4-5.心拍
・ 副交感神経の活動を示すRMSSD (Root Mean Square of Successive Differences) の値について、CM Bの方が高かったため、CM Bにより副交感神経優位(リラックス傾向)になる傾向があったと考えられます。

4-6.皮膚電位
・ 今回はどちらのCMでも覚醒度に差は見られませんでした。
・ どちらのCMもインパクトを誘発するよりはリラックス感を前面に出していたため、皮膚電位の指標では差が出なかった可能性があります。
・ただし、CM Bでのピーク振幅が高く、瞬発的に交感神経優位な状態がところどころあったように見受けられました。
心拍結果と合わせると、B視聴時にはインパクトのあるシーンでは覚醒を伴い、CM全体を通してはリラックス状態であったことが考えられます。
4-7.時系列波形(fNIRS&皮膚電位)
・皮膚電位:飲料をコップに注ぐシーンで反応がピーク
・総合的にBの評価が高い傾向
上記のように、主観ではあまり差が見られませんでしたが、生体計測では微細な反応を比較することができました。共通したシーンでは同じような反応が得られ、効果的な構成になっていることが示されています。また、生体計測においては、総合的にBの評価が高いというのも興味深い結果ではないでしょうか。
5.検証結果:サービスCM
サービスCMはABいずれも3名の同じタレントで構成されていて展開も同様ですが、ストーリーのみ異なっていました。似たシーンでは同じ反応になっているか、ストーリーの違いだけで何らか差が見られるかを確認してみましょう。
5-1.主観評価
・好意度:Aがやや多いが大差なし
・行動意欲: A 5名/B 4名 → 有意差なし
・自由記述:「テンポがよくコミカルなストーリーが面白い」「目が離せず印象に残る」という好印象な感想が多い。一方で「意図が伝わりにくい」「サービス利用意向には繋がらない」などの意見もあるものの、マイナスな言及は少ないという結果でした。
5-2.脳活動(fNIRS)
・記憶に関する部位・興味(自分ごと化)に関する部位にて、有意差なし。Aの方が高い。
5-3.脳活動(脳波)
・α波は同程度であり有意差なし。
5-4.視線
・基本的には顔を注視。文字よりも顔に視線が集中。
そのため、シチュエーションやストーリー展開にあわせた表情の変化が重要な要素になっていた可能性が考えられます。ABいずれもタレントがスマホを見せてサービスを訴求するシーンがありますが、BよりもAの方がスマホに注目が集まっているようでした。Aではスマホが画面中央に寄っていたことや、Bではスマホよりも差し出すタレントの顔が大きく映されていることが要因として考えられます。

5-5.心拍
・RMSSDの結果からはAの方が副交感神経優位(リラックス傾向)
5-6.皮膚電位
・Aの方がピーク振幅は高く、瞬間的に交感神経優位な状態がところどころあったように見受けられました。心拍結果と合わせると、A視聴時にはインパクトのあるシーンで覚醒を伴い、CM全体を通してはリラックス状態であったことが考えられます。
5-7.時系列波形(fNIRS・皮膚電位)
・A:アクションシーンで、記憶に関わる脳活動と皮膚電位がピーク。
主観評価でも同様の傾向が見られていることから、Aにおいて重要なシーンであったことが考えられます。

・AB共通点:スマホでサービス訴求するシーンで興味(自分ごと化)に関する部位がピーク

上記のように、主観評価ではほとんど差が見られませんでしたが、生体計測においてはAの方が効果的である可能性が考えられます。AB共通してスマホでサービスを訴求する際に、類似した脳活動が見られたことや、アクションシーンにて複数の生体指標でピークが見られたことから効果的なシーンを見出すことができました。
6.まとめ
いずれのCMにおいても主観アンケートのみではあまり差が見られず、好印象に繋がっているシーンや低評価に関わる要因などを解釈することは難しい傾向がありましたが、複数の生体指標を用いることで微細な反応を数値化し、より緻密なCM評価を行うことができる可能性が見出されました。
CMのAB比較の場合、良いもの同士を比較することになるため、少人数の実験では統計的な有意差を求めるのは難しいことが多いですが、比較時の指標として活用することは可能です。
商品やサービスのターゲットによって、訴求したいイメージや狙いたい反応が異なるため、事前に目的に沿った仮説を立てることで狙い通りのCMになっているかを検証していくことができます。
従来のCM評価に行き詰まりを感じている方や、新たな評価指標を試してみたいという方は是非、株式会社NeUにご相談ください。





