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ブレインテックとは?商品開発・マーケティングに革新をもたらす脳科学×AI技術

ブレインテック

「消費者の本音がつかめない……」

マーケティングや商品企画に携わる方なら、一度は感じたことがある悩みではないでしょうか。

従来のマーケティングでは、アンケートやインタビューを通じて消費者のニーズを把握してきました。しかし、消費者の声を反映したはずの商品が思うように売れなかったり、広告の効果が判断できなかったりするなど、「実際の成果につながらない」という壁に直面するケースは少なくありません。

このような課題を解決する技術として注目を集めているのが、「ブレインテック」です。

本記事では、ブレインテックの基礎知識から具体的な活用方法、成功事例、導入のメリット・デメリットまで詳しく解説します。脳科学とAIを融合し、消費者の無意識に潜む感情や嗜好を可視化することで、より精度の高い意思決定やマーケティングROIの改善・向上を実現するヒントが得られるでしょう。

 

1.ブレインテックとは?

ブレインテックとは、Brain(脳)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。脳神経科学と最先端のITを用いて脳の状態を計測・解析し、人間の認知や判断、感情、行動を理解して活用するための技術を指します。また、こうした技術を応用した商品やサービス、ビジネス領域全体を示すこともあります。

もともとは医療分野で、患者の治療を目的として研究が進められてきました。しかし近年は技術の進歩により、非医療領域での活用が活発化。教育、スポーツ、ヘルスケアに加えて、マーケティングや商品開発などのビジネス分野でも導入が進み、これまで取得できなかった消費者の無意識の本音を可視化する手法として注目されています。

 

2.ブレインテックが注目される3つの社会的背景

なぜ今、ブレインテックが多様な業界から注目されているのでしょうか。その背景には、次の3つの社会的要因があります。

2-1.脳科学データ活用への関心拡大と多分野でのニーズの高まり

働き方改革やウェルビーイング経営の普及により、人の脳状態を科学的に把握したいというニーズが多様な分野で拡大しています。例えば、マーケティングや商品開発の領域では、人の脳から得られる情報を消費者の感情分析や広告効果測定などに活用。ヘルスケアの領域では、従業員の睡眠の質やストレス状態を可視化し、メンタルヘルスやクオリティ・オブ・ライフの改善につなげる取り組みが行なわれています。

このように、従業員と顧客の双方を脳科学データにより深く理解できれば、組織全体の生産性を向上させることが可能です。

2-2.AIと脳科学の共進化によるイノベーション

脳科学とAIは、互いの進化を加速させる関係にあります。脳科学の知見がAIの精度向上に寄与し、進化したAIが脳信号の解読をより高度にする、いわば「スパイラルアップダイナミクス」が起きています。特に近年は機械学習の発展により、これまで解読が難しかった複雑な脳信号を高速かつ高精度で処理・解析できるようになりました。

その結果、行動意図や没入度、好き・嫌いといった従来のアンケートでは取れなかった定性的なデータを、定量化してビジネスに活用できる基盤が整ってきています。

2-3.測定技術の進化と手軽さの実現

従来、脳計測には高額で大型の機材が必要でしたが、近年は半導体技術の進歩や計測精度の向上により、脳計測デバイスの小型化・低コスト化が進んでいます。

具体的にはヘッドバンド型やイヤホン型など、日常生活で違和感なく使えるウェアラブルデバイスが登場。さらに5Gに代表される高速通信技術の普及により、計測した脳データのリアルタイムでのやりとりも可能になりつつあります。

 

3.ブレインテックで何ができるのか?

ブレインテックを活用すると、具体的にどのようなことができるようになるのでしょうか。ここでは、取得できる脳情報とおもな測定技術について解説します。

3-1.「見えない情報」へのアクセスが可能に

人間が目や耳などの五感で受け取るすべての情報は、神経を通じて脳で処理されています。つまり脳情報を扱うことは、人間が「何を見て、どう感じたのか」という外界で得た情報をすべてデータとして把握できる可能性を持っているのです。

従来、消費者の感情や好意度は言葉や行動の傾向などから推測するしかありませんでした。しかし、これらは本人の意識や建前に大きく左右されます。その点、ブレインテックでは、脳の活動パターンから「微妙な好き・嫌いのニュアンス」「本人も気付いていない潜在ニーズ」などを定量的に読み解くことが可能になります。ブレインテックは、消費者が言葉にしない・できない本音を脳データとして可視化する技術といえるのです。

3-2.ブレインテックで取得できる脳情報の種類

ブレインテックを活用すると、喜びや悲しみ、怒り、リラックス、ストレスといった感情をデータとして計測できるようになります。また、どの程度集中しているか、注意がどこに向いているかも定量化が可能です。

さらに、本人が言語化できない、もしくは意識していない本当の嗜好や、経験に基づく直感的な良し悪しの判断、身体を動かそうとする意思なども読み取ることができます。

これらの情報は定性的で読み解きが難しい領域でした。しかしブレインテックの発展により、脳情報をマーケティングや商品開発でも科学的に活用できる定量データとして扱えるようになった点が大きな革新といえます。

3-3.おもな測定技術と応用方法

脳活動を測定するおもな技術には、EEG(脳波計測)fNIRS(機能的近赤外分光法)fMRI(機能的磁気共鳴画像法)があります。EEGは脳内の神経細胞が発する電気信号を記録する技術です。fNIRSは近赤外光を用いて大脳皮質の血流変化を計測し、脳活動を可視化する技術。fMRIは磁気を使って脳内の血流変化をとらえる脳計測技術です。

これらで測定した脳データは、おもにBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)ニューロフィードバックニューロマーケティングの3つの方法で活用されます。

BMIは脳と機械を直接つなぎ、思考や意図でデバイスを操作する技術で、医療・ヘルスケア分野などで進展しています。また、ニューロフィードバックは脳活動をリアルタイムで可視化する技術で、集中力やリラックス度を高めるトレーニングに活用されます。

そしてニューロマーケティングは、脳活動から消費者の潜在的な嗜好や感情を把握する技術です。「消費者本人でも気付いていない本音を可視化できる」手法であり、商品開発や広告宣伝などに活用できる点に特徴があります。

なお、本記事では、効果的なマーケティング戦略を立案するうえで注目されているニューロマーケティングに焦点を当てて解説していきます。

 

4.ブレインテックを活用するニューロマーケティング

近年、商品開発や販売促進などでの活用が進んでいるのが、従来のマーケティング手法にブレインテックを取り入れた「ニューロマーケティング」です。ここでは、ニューロマーケティングの具体的な活用方法と事例を解説します。

4-1.ニューロマーケティングとは?ニューロマーケティング図解

ニューロマーケティングとは、アンケートなどの「主観指標」、脳や視線などの「生体指標」、反応時間などの「行動指標」を組み合わせて分析し商品開発や広告宣伝などに活用するマーケティング手法です。従来のアンケートやヒアリングのみによる行動分析では、消費者の無意識下の本音を引き出すことが難しく、「良いと思うとの回答が売上に結び付かない」などの課題がありました。

しかし、脳活動などの生理的反応は、人が意図的にコントロールできない無意識の本音を反映しています。こうした消費者本人も気付いていない本音を科学的に可視化し、潜在ニーズや本当の評価を定量的に測定できる手法が、ニューロマーケティングです。つまり、ニューロマーケティングは、「なぜ売れるのか」「なぜ売れないのか」を科学的に解析できるマーケティング手法といえます。

4-2.ニューロマーケティングのおもな測定手法

ニューロマーケティングでは生体指標のおもに「脳計測」「アイトラッキング」「自律神経活動」の3つの測定手法を組み合わせ、消費者の無意識の反応を多角的にとらえます。

まず脳計測では、EEG(脳波計)、fNIRS(機能的近赤外分光法)、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使用し、商品や広告などに対する消費者の脳の反応を把握します。特にfMRIは脳の深部まで観察でき、信頼性の高いデータを取得できる点が特徴です。詳しくは「fMRIとは?MRIとの違いやメリット・デメリットについて解説」をご覧ください。

次にアイトラッキングでは、視線の位置や動きを分析し、「どこを見たのか」「どの順番で見たのか」「どれだけ注目したか」を可視化します。脳活動との同時計測により、記憶に残りやすいポイントの特定も可能です。アイトラッキングの仕組みや活用事例については「アイトラッキングとは?仕組みから活用方法、脳計測と合わせた事例について解説」で詳しく紹介しています。

さらに自律神経活動の測定では、心拍計測により交感神経と副交感神経のバランスを算出し、ストレス・リラックス度を評価。また、皮膚電位計測により手のひらの発汗量を測ることで交感神経の活性度を測定します。

これらの手法を組み合わせた具体的な実施の流れについて詳しくは、「はじめてのニューロマーケティング|ゼロから実施する流れを解説」をご参照ください。

4-3.商品開発での具体的な活用方法

ニューロマーケティングは、商品開発プロセスの多様な場面で活用できます。

例えば、企画段階では消費者に複数の商品コンセプトを見せたときの脳活動を測定し、「どの案が最も効果的か」を科学的に判断可能です。また、商品パッケージを見た瞬間の脳活動や視線の動きを解析することで、より消費者に刺さるデザイン案を選定できます。

このように、市場への商品リリース前に消費者の「無意識レベルの反応」を把握することで、失敗リスクを低減できるのも大きなメリットです。将来的には個々の脳活動データを蓄積し、消費者一人ひとりに最適化された製品やサービスを提案することも期待されています。

4-4.広告・プロモーションでの活用事例

広告・プロモーション分野においても、ニューロマーケティングは大きな効果を発揮します。例えば、テレビCMや動画広告を視聴中の消費者の脳活動・視線・表情を測定し、広告効果を科学的に評価可能です。

Webサイトやランディングページでは、閲覧時の視線追跡によりユーザー行動を可視化し、コンバージョン率の改善につなげられます。また、店頭販促物においても、POPやディスプレイへの反応を測定し、最も購買につながる配置を科学的に特定することが可能です。

4-5.NeUのニューロマーケティング事例

NeUは、東北大学加齢医学研究所の認知脳科学知見と日立ハイテクの携帯型脳計測技術を融合して設立された企業です。消費者の無意識的・直感的な反応を生体信号で数値化し、従来のアンケートやインタビューではとらえきれない本音を分析するサービスを提供しています。

具体的な事例として、バンダイ様との共同開発では赤ちゃんの脳血流や表情を測定し、気分を切り替えるメロディを開発しました。また、凸版印刷様(現:TOPPANエッジ様)との協業では、広告クリエイティブを生体信号データでスコア化する「ニューロデザイン」評価サービスを展開しています。

そして、森永製菓様との取り組みでは、「パッケージデザインの評価」においてfNIRSとアイトラッキングを用いて視線誘導や興味・記憶への効果を分析。「パッケージの開封から喫食終了までの体験評価」では脳血流と心電計測により商品価値を総合的に評価しています。

 

5.ブレインテックのメリットとデメリット

ここでは、ビジネス領域でブレインテックを活用するメリットと、導入前に理解しておくべき課題について解説します。

5-1.ビジネス活用のメリット

ブレインテックのメリットは、客観的な数値データに基づいて意思決定できる点です。

商品開発や広告戦略を進める場面では、担当者の主観やこれまでの経験が意思決定に反映されることが少なくありません。しかしブレインテックを活用すると、消費者の無意識下の本音をデータとして定量化できるため、科学的な裏付けに基づく確度の高い判断ができます。結果、広告宣伝の説得力が増し、消費者からの信頼も得られやすくなります。

また、人材育成の分野で効果を発揮する点もブレインテックの特徴です。例えば研修中の社員の興味・関心を脳活動データで把握することで、本当に効果的な育成プログラムを設計できます。会社が提供する研修に社員が興味を持っているかどうかを客観的に確認でき、時間とコストの無駄を防げるのです。

さらに、伝統工業や製造業では熟練者の脳活動データをAIに学習させることで技能の本質を抽出でき、熟練技能の継承問題の解消につなげられます。

5-2.デメリットと克服すべき課題

ブレインテックは多くの可能性を秘めている一方で、導入する前に理解しておくべき課題も存在します。

特に注意したいのは、セキュリティリスクです。脳データは個人の思考や感情に直結するセンシティブな情報であり、万が一漏洩すると深刻なプライバシー侵害につながる恐れがあります。情報の悪用を防ぐには、データの暗号化などのセキュリティ対策が欠かせません。

また、ブレインテックは個人の内面に触れる技術であるため、適切に運用しないと人権侵害につながるリスクもあります。そのため、使いたくない人を対象から外す、データ取得の目的と利用範囲を明確に説明するといった倫理的な配慮が不可欠です。

さらに、ビジネス現場や日常環境で高精度の脳活動データを取得するのは容易ではなく、計測には時間とコストがかかるケースも少なくありません。加えて脳活動は個人差が大きく、データの再現性が低くなる可能性がある点にも注意が必要です。

 

6.ブレインテック市場の現状と今後の展望

ここでは、ブレインテック市場の現状と、今後の技術的展望、マーケティング分野での可能性について解説します。

6-1.世界各国の研究開発動向

ブレインテックは医療、教育、産業といった多様な領域を横断する技術として、世界各国で研究が進められています。

アメリカではBrain Initiativeなどの大規模研究プロジェクトが進行中で、民間企業も多額の投資を行なっています。また、イスラエルでも元首相がIsrael Brain Technologiesの設立に関与。ブレインテックを活用したビジネスの開発が推進されています。

そして、日本でも大学や研究機関、企業を中心にブレインテックの研究が進展している現状です。例えばNTTドコモは6G時代の注目技術としてブレインテックを位置付けており、「次世代通信×脳データ」のユースケースを積極的に検討しています。

6-2.今後の技術的展望

ブレインテックは、今後「日常的に使える技術」へと大きく進化すると考えられています。

例えば、イヤホン型やヘッドバンド型など日常生活で使えるウェアラブルデバイスの普及が進む見込みです。計測精度や装着性、メンテナンス性が大幅に改善されれば、ビジネス現場や家庭などさまざまなシーンで脳活動の計測が容易になります。

そして、AI技術と脳計測技術の融合が進むことで複雑な脳信号の解析精度が向上し、脳状態をリアルタイムで分析できるようにもなるでしょう。また、総務省が進める研究開発プロジェクトの一環でBMI利用ガイドラインの整備が進められており、企業が安心して導入できる環境が整いつつあります。

6-3.マーケティング分野での今後の期待

ニューロマーケティングを本格導入している企業はまだ限定的ですが、今後5~10年で状況は大きく変わると見られています。消費者の無意識の反応を科学的に把握することで、マーケティングROIの劇的な向上が期待できるためです。商品パッケージ、テレビCM、Webサイト、店頭販促物など、消費者が商品と接触するあらゆる場面で脳活動データを活用する企業は増えていくでしょう。

将来的には個人ごとの脳活動データを蓄積し、「あなたの脳が本当に求めているもの」を提案する究極のパーソナライゼーションが実現する可能性もあります。

 

7.まとめ

ブレインテックは、脳科学とAI・ITの融合により、これまで見えなかった消費者の本音を可視化する革新技術です。

ブレインテックを活用すると、「どの瞬間に興味が高まったのか」「なぜその商品が選ばれないのか」といった、従来のアンケートでは取得できなかった情報を科学的に把握できるようになります。その結果、商品開発や広告制作など、あらゆるマーケティング活動の精度が大幅に向上します。

セキュリティや倫理面の課題は存在するものの、ガイドラインの整備やAI解析技術の進歩などにより解消される見込みです。「消費者の脳が本当に求めているもの」を理解して施策を最適化する時代は、すでに目前です。

NeUは、学術的な知見と先端技術を活かし、ニューロマーケティングをはじめとするブレインテックの導入を幅広くサポートしています。マーケティングの新たな可能性を探りたいとお考えの企業は、まずはお気軽にご相談ください。

■本件に関するお問い合わせ

株式会社NeUニューロマーケティングチーム
E-mail info@neu-brains.com

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ニューロマーケティングチーム 広報担当

営業職、カスタマーサクセス職を経て、2024年に株式会社NeUに入社。マーケティング担当・広報担当としてホームページの運営に従事。ニューロマーケティングというあまり親しみのないテーマをより分かりやすく伝えたい、という想いで広報活動を行っています。

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