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ユーザーの視線の動きを計測し分析するアイトラッキング(視線計測)技術。株式会社NeUでは、ユーザビリティ評価や広告クリエイティブ改善など、ニューロマーケティング領域で脳活動との同時計測ソリューションを提供しています。今回はそのアイトラッキング技術について、改めてご紹介します。
1.アイトラッキングとは?
アイトラッキングとは、ヒトの眼球運動を分析し、視覚的注意などを明らかにする生体計測手法です。ヒトの視線の滞留場所(注視点)や動きを、アイトラッカーと呼ばれる専門の機械で計測。取得したデータを分析し、よく見られていた場所や、見る順序、反対に全く見られていなかった場所などを明らかにします。
心理学や認知科学などの学術領域のほか、マーケティング領域、観光分野、医療・教育・スポーツの研究など、さまざまな分野で利活用されているほか、近年ではVR空間内での計測やAIによる視線推定などの研究も盛んに行われており、今後も成長が期待されている技術です。
1-1.アイトラッキングの種類
眼球運動を測定するアイトラッキングは、大きく分けて侵襲的な方法と非侵襲的な方法に分類されます。侵襲的な方法としては、「サーチコイル法」があります。被験者に負担の少ない非侵襲的な方法として、「眼電図法(Electrooculography:EOG法)」と「光学的手法」があります。
・光学的手法:カメラを用いて眼球の動きを計測する方法で、角膜や瞳孔からの反射光を捉えることで、リアルタイムで精度の高い計測データが得られるため、広くニューロマーケティングで用いられる手法となります。
さらにこの光学的手法には、被験者が頭部などに機器を装着する「装着型」と、離れた位置に機器を置いて計測する「非装着型」の大きく2種類の方法に分かれます。
1-2.アイトラッキングの仕組み
光学的手法の中にはさまざまな計測原理が存在し、それぞれ計測精度や用途に応じた特徴があります。ここでは代表的な計測原理について解説します。
角膜反射法
赤外線を眼球の角膜に照射し、その反射光をカメラで捉えることで眼球の動きを追跡する手法です。赤外線は人間の目に見えないため、被験者に負担をかけずに計測が可能です。角膜反射法では、角膜表面で反射された光の位置変化を高速度カメラで検知し、視線の方向を推定します。装着型・非装着型いずれのデバイスでも広く採用されており、視線計測の最も一般的な技術といえます。
強膜反射法
強膜(白目の部分)に光を照射し、眼球の動きを追跡する手法です。角膜反射法と比較すると解像度が劣ることが一般的ですが、コストが低いため簡易的な装置で利用されています。
ダブルプルキンエ法
眼球内で光が屈折面(角膜・水晶体)で反射して形成される像(第1~第4プルキンエ像)を用いて、非常に精密な視線計測を行う手法です。特に第1プルキンエ像(角膜前面)と第4プルキンエ像(水晶体後面)の位置関係を基に、視線方向や微細眼球運動(マイクロサッケードなど)を高精度に解析します。この手法は、特に神経科学や医療研究の分野で活用されていますが、装置が高価で複雑であることがマーケティング向けの用途としては課題となります。
瞳孔中心法(瞳孔・角膜反射法)
角膜に照射した赤外線の反射点と、カメラで捉えた瞳孔の中心の相対的な位置関係を利用して視線を推定します。角膜反射法の技術の発展型といえる方法で、視線方向の推定精度が向上しています。NeUが実施するニューロマーケティング調査でも、この方式を採用したアイトラッキング機器が最も標準的な選択肢となっています。
1-3.アイトラッキングでわかること
一般的には、視線の停留時間を視覚化したヒートマップや、視線の動きを順序で表したゲイズプロットなどが、アウトプットとして見られます。
NeUでは上記に加えて、瞬目(まばたき)を利用した集中度評価や瞳孔径の測定による注目度の判定、脳活動との組み合わせによる興味関心・記憶への残りやすさのスコア化など、先行研究(e.g., [1], [2])をベースとした多彩な計測を実施しています。
引用文献
[1] Courtemanche, F., Léger, P. M., Dufresne, A., Fredette, M., Labonté-Lemoyne, É., & Sénécal, S. (2018). Physiological heatmaps: A tool for visualizing users’ emotional reactions. Multimedia Tools and Applications, 77(9), 11547–11574.
https://doi.org/10.1007/s11042-017-5091-1
[2] Blascheck, T., Kurzhals, K., Raschke, M., Burch, M., Weiskopf, D., & Ertl, T. (2017). Visualization of eye tracking data: A taxonomy and survey. Computer Graphics Forum, 36(8), 260–284. https://doi.org/10.1111/cgf.13079
1-4.アイトラッキングのアウトプット例
こちらのサンドイッチの画像を視線計測用素材として用いた場合のアウトプット例をご紹介します。
ヒートマップ
注視の度合いを色分けして示す方法をヒートマップと言います。サーモグラフィのように、注視が多い箇所ほど暖色で示され、注視が少ない箇所ほど寒色で示されます。よく見られている箇所を確認でき、一方で全く見られていない箇所も可視化できます。
ゲイズプロット
注視した箇所と注視時間、視線を向けた順序を示したものがゲイズプロットです。注視した箇所に丸が表示され、注視時間が長いほど丸が大きく表示されます。注視の丸部分には、視線を向けた順番に数字が振られ、番号順に線で結ばれています。これにより、時系列による視線の移り変わりを追うことができます。
2.アイトラッキング+脳活動の注意点
近年、脳科学(認知神経科学)の研究において、複数の生体計測を組み合わせての実験が重要視されてきており、技術・機器の進歩によりその数は上昇の一途となっています。視線と脳活動の同時計測はその代表的な組み合わせ例といえます。
たとえば、「脳活動が高いときに注視していたものが、記憶に残りやすい」ということが、先行研究で明らかになっています (e.g.,[3] )。これは視覚課題を行った際の視線と脳活動の同時計測実験により、「注視回数が多く、脳活動が高い場合、記憶再認率が最大」となることが発見されたものです。
しかし、こういった同時計測を実施する際には、計測機器の干渉に注意が必要です。電気的な干渉によるノイズはもちろんのことですが、たとえばアイトラッカーが計測に使用している近赤外光と、近赤外光を用いたfNIRSによる脳活動計測器との干渉ノイズは、同時計測時の大きな課題となっていました。
NeUでは、fNIRS技術のプロフェッショナルとして、相互の近赤外光の干渉を抑える方法を研究・開発し、視線と脳活動の同時計測を実現しています。
引用文献
[3] Obata, A.N.,Katura, T., Atsumori, H., & Kiguchi, M. (2013). Evaluating the attention devoted to memory storage using simultaneous measurement of the brain activity and eye movements. In: Stephanidis C. (Ed.), HCI International 2013 – Posters’ Extended Abstracts. HCI 2013. Communications in Computer and Information Science, vol 373. Springer, Berlin, Heidelberg.
https://doi.org/10.1007/978-3-642-39473-7_89
3.アイトラッキング×脳活動計測の活用方法と事例
3-1.CM・動画コンテンツ評価
興味関心度が高いシーンや、記憶に残りやすいシーンを抽出。クリエイティブの評価・改善に役立てています。
3-2.棚レイアウト評価・店舗評価
商品棚の並べ方、店頭POPの優劣・有無の評価などを行っています。商品の売上と合わせて検証した実績もございます。
3-3.商品パッケージ評価
新商品やリニューアル商品のパッケージを分析し、記憶に残るポイントや印象の評価を行っています。競合商品との比較も可能です。
その他、Webサイトのユーザビリティ評価、車のインテリア・エクステリアの印象評価など、視線+脳活動によるさまざまな調査を行っています。
4.アイトラッキングの研究論文や調査方法のご紹介
アイトラッキングを理解する上で参考となる、レビュー論文をご紹介します。
・Duchowski, A. (2007). Eye tracking methodology: Theory and practice (2nd ed.). Springer.
Amazon | Eye Tracking Methodology: Theory and Practice | Duchowski, Andrew T. T. | Methodology
アイトラッキングの理論的背景と応用例を数多く紹介している書籍で、視覚認知・注意の神経基盤や脳機能イメージングとの同時計測についても触れられています。
・Peysakhovich, V., Dehais, F., & Duchowski, A. T. (2018). Why is eye tracking an essential part of neuroergonomics? In H. Ayaz & F. Dehais (Eds.), Neuroergonomics: The brain at work and in everyday life (pp. 27–30). Elsevier.
https://doi.org/10.1016/B978-0-12-811926-6.00004-X
人と機械のインタラクションを研究する人間工学に脳科学的な理論・方法論を統合した新たな学術分野である神経人間工学 (neuroergonomics)の研究において、アイトラッキングがいかに重要な生体計測データであるかを論じています。
・Duerrschmid, K., & Danner, L. (2018). Eye tracking in consumer research. In G. Ares & P. Varela (Eds.), Methods in Consumer Research, Volume 2: Alternative Approaches and Special Applications (pp. 279–318). Elsevier.
https://doi.org/10.1016/B978-0-08-101743-2.00012-1
アイトラッキングが利用されている様々な分野の中でも、特に消費者研究に特化して、いかにアイトラッキングが利用されてきたかを過去の研究を概観し紹介しています。
・Scott, N., Zhang, R., Le, D., & Moyle, B. (2017). A review of eye-tracking research in tourism. Current Issues in Tourism, 22(10), 1244–1261.
https://doi.org/10.1080/13683500.2017.1367367
観光分野での研究でアイトラッキングがどのように利用されているか過去の研究を概観しています。
5.まとめ ーNeUが考えるアイトラッキングの将来性ー
NeUでは、検証の目的に合わせたさまざまなアイトラッカー(視線計測装置)による計測の実施が可能です。
アイトラッキングと、脳活動との同時計測により、さらなる多面的な考察結果を得ることで、デザインや店舗レイアウトの評価、広告クリエイティブ・UIの改善などに大いに役立てることが可能です。
また、VR空間など新たな領域への応用も盛んに研究されています。
アイトラッキングを用いたニューロマーケティングに興味をお持ちいただけましたら、ぜひお問い合わせください。