MRIは体内の断層を撮影する装置であり、医療現場でさまざまな部位の疾患を発見するために利用されています。
このMRIから派生し、脳を対象とした「fMRI」という装置があることをご存知でしょうか。fMRIは医療分野だけでなく、さまざまな分野へ応用できる装置として注目されています。
この記事では、fMRIの概要やMRIとの違い、代表的な使用例やメリット・デメリットについて解説します。
MRIとはどのような技術?
fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)とは、MRI(Magnetic Resonance Imaging)の技術をもとに、脳を対象とした断層画像を取得するための装置・技術です。そのため、まずはMRIの概要から紹介します。
MRIとは
MRIは放射線を用いず、磁石による磁場と電波を用いて、生体外部から組織を画像化する装置・技術です。
医療用MRIでは、水素原子から出る信号を利用しています。MRIでは原子核スピンの緩和時間が生体組織ごとに異なることを利用して画像化しており、磁場が強いほうが精細な画像を得られます。
なお、MRIでは磁力はT(テスラ)で表され、医療用では0.5~3T、研究用では7Tのものが存在し、人体にも使える世界最高磁力のものだと9.4Tがあります。
体の断層画像を撮影できる技術・装置としては、ほかにもCT(Computed Tomography)が挙げられますが、CTは放射線(X線)を用いる点が特徴です。CTと比べてMRIは放射線の被ばくがなく、診断のために縦・横・斜めと自由に断面を撮影できます。
fMRIとMRIの違い
fMRIとMRIの仕組みはどちらも同じです。ただし、fMRIは脳の機能や活動の観察に、MRIはおもに全身の組織や臓器の構造の詳細な観察に用いられます。
MRIでも、非侵襲的(体を傷つけず)に脳の構造を観察できますが、脳の神経活動で起きる電気磁気現象の直接検出が困難なため、脳機能の測定は不可能といわれていました。
そこで、脳機能活動とともに信号が変わる「BOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果」に注目して、fMRIが生み出されます。fMRIの誕生により、脳の構造情報に加え、機能活動がどの部位で起きたかを画像化できるようになりました。
このようにfMRIとMRIの違いは、脳の機能活動の測定可否という点にあります。
fMRIでわかること
fMRIはおもに脳科学の分野で使われており、脳科学の研究分野の発展に大きく貢献しました。
例えば、「エピソード記憶」という記憶に関する、脳活動パターンの研究です。日常の状況や出来事などは、側頭葉の大脳皮質に「エピソード記憶」として記憶されています。脳全体のネットワークの結合状態と、このエピソード記憶の記銘成績との関係性が、fMRIを用いた研究により解明されました。
また医療分野では、脳疾患の診断などに使われています。脳の特定部位の信号強度が、健常者と脳疾患を持つ患者の間で違いがあることがわかっており、fMRIによって検査が可能です。
近年では、脳科学や医療の分野だけでなく、刺激に対して脳がどのように反応するかを分析することで、商品開発やマーケティングの分野でも活用できるとして注目されています。
fMRIのメリット・デメリット
fMRIにはメリットだけでなく、デメリットもあります。fMRIへの理解を深めるためにも、それぞれの内容を押さえておきましょう。
fMRIのメリット
fMRIの大きなメリットは、体を傷つけることなく、脳の機能活動を計測できる点にあります。
また、空間的分解能が高いので、脳の深部まで観察でき、脳の構造だけでなく機能活動まで計測が可能です。そのため、信頼性の高いデータが取得できます。
fMRIのデメリット
fMRIは、脳の神経細胞の活動を見ているわけではないということは、覚えておく必要があります。あくまでも、神経活動にともなう神経代謝や脳血流量の変化をとらえているものであるため、時間分解能が低いという特徴があります。
また、fMRIを利用するためには機材が必要です。そのため、実施できる施設が限定されること、高額な機材の使用で実際に活用できる方が限られることも、デメリットとして挙げられるでしょう。横になった姿勢での計測になるため、非日常的な環境での測定になることも考慮する必要があります。
まとめ
fMRIは、MRIの技術をもとにしており、脳を対象とした断層画像を取得するための装置・技術です。fMRIは脳の機能や活動の観察をするもの、MRIはおもに全身の組織や臓器の構造の観察をするもの、という違いがあります。
fMRIはおもに脳科学や医療の分野で活用されていますが、今後、商品開発やマーケティング分野での活用もさらに増えていくことが予想されます。